湖水地方
エドワード・ヒューズを訪ねて

 

      

 

 
列車の旅
とにかくイギリスの列車は当てにならない、というのがヒューズさんから川口さんに入ってきた情報だった。何が起るか解からないから早めに出ようということで、列車での昼食を買い込んでユーストン駅に向かう。苦い経験をしたので、今度はプラットホームなど列車を間違わないように、確かめようとすると、何番のプラットホームか決まってなかった。カフェでカプチーノを飲みながら案内を待っていた。この旅ですっかりカプチーノが気に入ってしまった。・・・・早く来過ぎてしまった。何時までたっても表示が出ない。結局出発間際になってようやく8番線の表示が出て、ばたばたと乗り込む。指定席を見つけて一安心。ロンドン10:33発3:30ペンリス着までの5時間は結構長い。だが、景色は大きく変わったものはなかったが、建物や川や牧場など見飽きない、霧の濃い樹氷の中を走ったり、時に、列車のすぐ近くを目線の高さで空軍のジェット機が飛んでいったりで、あまり退屈はしなかった。
ペンリスから目的地のコッカマスまでバスで1時間45分くらいだった。待ち時間もあってホテルに着いたのは6時になっていた。
三つ星でもロウトホテルはとても素晴らしかった。こじんまりとしたホテルだが、歴史をそのまま残した雰囲気はとても上質のものだった。食事はレストランとパブとがあったのでパブにした。簡単にすまそうとラザニアを注文したら、ポテトチップと野菜サラダがボリュームたっぷりで恐れ入ってしまった。この頃になると胃腸が快調だったので私は全部平らげたが、川口さんはつらそうに残していた。

Edward Huzhes
翌朝も上天気、青く晴れわたった空と白い霜の世界だった。10時にヒューズさんが車で迎えに来てくれた。挨拶をする。背の高い穏やかな方だった。日本語も上手で助かった。早速彼の家に連れて行ってくれた。着いたところは想像とはまったく違っていた。勝手に木造作りの小ぢんまりとした佇まいを想像していたが、石造りの壮大な建物だった。そこは荘園主の住まいだった建物と馬小屋や納屋とからなっていた。彼の仕事場兼住まいは馬小屋を改装したものだった。馬小屋といっても16世紀に建てられ修理しながら使われ続けたもので、大きくてとても美しい姿をしていた。イギリスは古い建物を大切にすることでは屈指の国である。彼の展示室は改装を申し出て6年目でやっと完成したそうである。古い物が残る一方で、新しいものが生まれにくい土壌かもしれない。
2階の住まいに案内された。黒い大きな梁と白い漆喰とがとても美しく調和していた。通された部屋で話をしていて書の話になった。どう扱ったらいいのか解からなくて、そのままにしている道具が一式あるので使い方を教えて欲しいと頼まれた。筆の使い方など簡単なのだが、特別の作法があるように誤解している人が結構多い。絵筆やペンを使うようにやってみてくださいといって、名前を書いてもらったらとても魅力的な書がで来た。一段落して食堂へ通された。テーブルや調度品がとても魅力的に感じたが多くは彼の作品が並んでいるのだった。昼食は3種類のソーセージとパンとスープにトマトの野菜サラダだった。トマトのサラダが美味しかった。
食事の後、湖水地方のとても美しいところを見に行こうと誘ってくれた。Castlerigg Stone Circle キャッスルリッヂ・ストーンサークルだった。このストンサークルは有名なストンサークルよりも素晴らしいとヒューズさんはいっていたが、私もそうだろうと感じた。阿蘇の外輪山のようにこの丘を中心にして、四方を山並みが囲んでいるのである。その中心に石の円を作った古代の人々は、神が降臨する神聖な場所という思いだったのだろう。私はアイルランドのグレンダロッホで感じた空気と同じものをこの丘に感じた。空は青く澄みわたリ、冷たい風が容赦なく吹きつける。そして霜の降った山並みは、不思議な色で私たちを包み込んだ。ヒューズさんたちもこのような風景と寒さは初めてだという。それから湖水地方らしい湖を見に行く。湖は氷がはっていた。そしてとても寒かったので早々に帰って来た。
ホテルでヒューズさんご夫妻とお別れをした。その後、成一と二人でホテルの近くを歩いてみた。5時を過ぎていて店が閉まりだしていた。大工道具店に入って、何か独特の面白いものはないかと、物色してみたが面白いものには出会わなかった。記念に150円くらいの金具を2個買うと、レジの女の子が笑っていた。店を出てホテルへ帰った。
ディナでも食べようかといっていたのだが、結局パブだった。成一はお腹がすいていないというのでパス。川口さんと二人で夕食である。二人ともサンドイッチとビールですませた。実は今回の旅行、夜が長くて大変だった。3人とも酒を飲んで楽しむ方ではないので、夜は早々と用がすんでしまい後は何もすることがないのである。話もそうはないので寝てしまうと、夜中に目が覚めてしまい、それからが寝付けない。悶々と朝を待つのである。この夜も朝かなと思うとまだ2時だった。寝返りをうつことしきり。

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