ロンドンの美術館で食事を


  

  
Willam Blake
ロンドンの三つ星ホテルはすごかった。夕食は外で取るのも面倒だからホテルのレストランへ。お客さんはまばらで閑散としていた。選んだスープのまずかった事、どう作ったらこんなにまずくなるんだろうというものだった。鶏肉を少し食べたかったのだがどっさりお皿に盛られた。それはどうにか食べられた。川口さんが頼んだ何とかという料理はとてもまずかったようだ。料理が料理なら部屋の窓ガラスもぴたっと閉まらず隙間風がヒューヒュー入り込む。一つ星で充分である。

6日目の15日、ロンドンの友人に会う成一とは別行動。川口さんと二人で美術館めぐり。成一に地下鉄の終日乗り放題のチケットを買ってもらい、乗り方を教わる。地図とにらめっこで乗り過ごさないように注意する。まずヴィクトリア・アンド・アルバート博物館へいく。中世の面白いものをたくさん展示しているということだったのだが、まるで貴族のままごとのようなキラキラしたものが、広い会場一杯に並んでいる。日本の会場には甲冑や刀が巾をきかしていた。どうせ他のもつまらないだろうから休憩しようという事になった。カフェに入っていくと、美味しそうな軽食と飲み物がずらりと並んでいる。昼食には早かったので、カプチーノを飲む事にした。テーブルの方へいくとそこの造りがレンガを配して明るくモダンな空間である。ここで食事をするのが日課なのだろうか、老人の方達が朝食を取っていた。何かいい感じである。

次はテイトモダンに行こうとまた地下鉄に乗る。テイトモダンの場所は解からないがテイトギャラリーの近くだろうということで、場所が解かっているテイトギャラリーを目指す。テイトギャラリーも詳しい地図がなかったので、地下鉄から外へ出ると、さてどちらへ行けばいいのか。大きな道の方へ行くとTate Gallery→の表示を見つけた。それに従って進んで行くと、さて右と左どちらへいけばいいのか解からない。傍の店へ駆け込むと主人が、尋ねる前に左という、いつも尋ねられるそうである。それからすぐのところにテイトギャラリーがあった。垂れ幕を見て川口さんが「ウイリアム・ブレークをやってますよ」エッ誰ウイリアム・ブレーク、あっブレークかと気がついた。ずっと前に彼の作品集を探していたのを思い出した。何とついている事か、予期せぬ出来事である。
ブレークの作品の素晴らしかったこと。久し振りの感動である。作品の数も多かったがその内容が写真で見ていたものとは、まったく印象が違ったのである。テクニックの素晴らしさ、イメージの豊かさ、新鮮なアイデア、そしてなんといっても深い色の美しさ。魅せられてしまった。ふと気がつくと3時間近く経っていた。
素晴らしい感動を胸に、一寸遅くなった食事である。博物館でのコーヒーが楽しかったので美術館の昼食も楽しみにやってきた。レストランとカフェがあったがカフェに入った。造りは赤い壁に所蔵のモノクロ写真作品の複製を飾っていて、また違った感じで面白い。日本の美術館のレストランとは気合の入り方が違う。カフェにも軽食を揃えていて、サンドイッチや調理パンなど美味しそうなものがたくさん並んでいた。私はお肉の入ったパイと果物とビールを選んでレジへ、レジだと金額が見えるので英語の苦手な者には都合がいい。だいぶ英語に慣れてきたので、ハローと声をかける。黒人の可愛い女の子、ニコッとまた可愛い笑顔。支払いをすまし傍に用意しているナイフやフォークを揃えていて、ついビールをこぼしてしまった。アイムソーリーと彼女の方を見ると、心配ないという笑顔。ビールのかかったパイを変えてあげようと、新しいパイを持ってきてくれた。このときの笑顔は私にとって最高の笑顔だった。益々美術館のカフェが気に入った。
テイトギャラリーでテイトモダンの場所を聞くと、美術館を出て左へ行き最初の橋を渡って川沿いに10分ぐらい行けば、テイトモダンだということで歩いていく。大きな橋を半分くらい渡ったところで川口さんが「あれ、ビックベンですよ。これテムズ川だ。」それじゃということで記念撮影。ビックベンのちょうど真向かいに来たところで4時の鐘。テイトモダンはまだ見つからない。誰かに尋ねようと手ごろな人を探していたらそこへ、日本人を乗せた観光バスが止まった。その案内人の方に聞くとまだ随分遠いとのこと、歩くのにも疲れたし時間内に着かないかも知れないというので、今日はここまでということにした。
それにしても思わぬ幸運な日だった。ブレークに会えたのも最高だったが、「地下鉄に乗り、ロンドンの美術館で昼食を」というツアーを組もうと盛り上がった。

その日の夕食は駅前のマーケットでサンドイッチや果物を買ってきてビールを飲みながら済ませた。

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